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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)3700号 決定 1953年2月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小野清一郎の上告趣意第一点について。

原審が是認した第一審判決の事実摘示は論旨摘録のとおりである。しかし、その判文は稍精密を欠く嫌がないではないが、その挙示する証拠の内容を斟酌すれば、判旨は被告人が古田隆と強盗を共謀して見張をしている間に、右古田において被害者景山和枝に対し携えていた刃渡四十五センチメートルの日本刀を突き付けて「金を出せ」「騒ぐと突き刺すぞ」などと申向けて脅迫し同女から金員を強取しようとしたところ、同女が右手で右日本刀にしがみつき大声をあげて救を求めたためその目的を果さなかったが、その際古田隆がその刀を引いたのでその切先などにより同女の右手掌及び左眼瞼に全治二週間を要する切創を負わしめたとの事実を認定しているのである。犯人が被害者に対し前示のような日本刀を突き付ける所為をなせばそれだけでも人の身体に対する不法な有形力を行使したものとして暴行を加えたといい得ること勿論であって、かかる際に判示の如く被害者がその日本刀にしがみつき救を求め、犯人がその刀を引いたことにより被害者の判示部位に切創を負わしめたとすればその負傷は右暴行による結果たること多言を要しないところであるから本件は所論のように強盗が暴行を加えずただ脅迫しただけというような事態ではなく、強盗が暴行により被害者に傷害を加えたとの事案なのである。されば論旨は結局原判旨にそわない事実関係を前提とする所論であり採用の限りでない。(なお判例集三巻三号三七六頁以下当法廷の判決参照)。

同第二点について。

所論証人古田隆が当初被告人小塚と共同被告人として併合審理されていたものであることは所論のとおりである。しかし、第一審判決が事実認定の資料として引用した所論同証人の供述及びその供述記載は、右併合審理手続の分離後右古田が被告人小塚に対する公判において証人として尋問された際における証言及びその記載なのである。論旨引用の判例は現に共同審理を受けている共同被告人の供述に関するものであり、本件には適切でない。第一審判決が所論証人古田の供述及びその供述記載を独立の証拠能力あるものとして事実認定の資料に供したからとて所論のような違反があるとはいい得ない。その他所論はすべて単なる訴訟法違反の主張であり刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論共謀又は見張の点に関する第一審判決の事実認定も同判決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認するに難くはない。所論被告人の供述がたとえ罪となるべき事実に関する自白を包含していないとしても、その内容に照らし、これを情況証拠として綜合認定の資料の一つとするに何等の妨げもない。また所論証人岩倉勇太郎の供述が誘導又は脅迫によるものであることを認むべき証跡は記録上存在しない。そしてその証言に「実質的な証明力は皆無である」とする所論は独断であり、結局事実審の裁量に属する証拠の採否を非難するに帰着する。なお追加上告趣意の所論は事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであり刑訴四〇五条の上告理由に当らない。)そして本件では刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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